ルリタテハの家で、毛布にくるまって

【注】4枚目以外は加工写真です。

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9月29日

 接近してきた虫を追い払おうとめまぐるしい動きをくりかえしたルリタテハのサナギが、あれから8日目のきょう、羽化した。
 このまえの羽化のように、腹部にあらわれる横縞の線は白っぽくならず、黒にちかい焦げ茶のままだった。
 しかし、庭からビンに移し変えたサナギは、一枚のホトトギスの葉の裏でますますスリムになり、来たるべき時間に合わせてキリキリとぜんまいを巻き絞っているような様相であった。

 けさは、雨が降ってくる前に小貝川の土手までいかなければならなかった。
 ジャコウアゲハの幼虫の食草、ウマノスズクサを補給する必要があった。
 ルリタテハはすべてサナギになっていた。幼虫はいない。食草ホトトギスはもう要らない。


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 9月とは思えぬ寒い朝だ。バイクで4キロばかりの道を走る。
 ルリタテハの羽化が始まらないかと気がかりだ。
 サナギから出てくる蝶を撮りたい。準備はしてある。
 いつ始まるか、予測がつかない。これまで何度も見逃している。
 いつでも、気づくと羽化が終了している。


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 8時前には雨が降ってきた。早朝の小貝川行きは正解だった。
 期待の羽化の気配はなかった。
 しかし、屋外の飼育ケースのルリタテハが一匹、羽化していた。雨のなかの羽化だった。
 蝶は天候など選ばずに羽化するのだ。
 9月の雨だが、つめたい雨だ。
 ぬれて生まれて、またぬれるのだ。
 羽を乾かすどころではないとみえる。
 血に似た褐色の体液をいくたびとなくしたたらせながら、羽が乾くのをこの生きものは待たなければならない。
 雨は、ケースの金網の底を染めた蝶の体液を洗い流すだろう。
 しかしいつまでも羽は乾かないだろう。

 外のケースを玄関の軒下に移した。ケースにいる以上、いずれにしても不自然な移ろいだが、雨がしのげればいくらかは蝶もらくなのではないか――自然の摂理を冒した男の浅はかな考えと実行だった。


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 午後も、小雨だけれど絶え間なく降った。
 さいきんとみに不規則な寝起きとなった男は、午後の二時になってひどい眠気に襲われた。
 この時間になってはもうきょうの羽化はないだろう。
 ほんのわずかな経験しか持たない、無知蒙昧な、根拠のない判断だった。
 毛布にくるまった。
 毛布にくるまって泣いている女…
 このごろ気になるそんな歌を耳によみがえらせつつ。

 小一時間ほどで目覚めた男はまたももくろみをそがれたのである。
 サナギにすがった生まれたての蝶は、ビンに差したホトトギスの葉の裏ですでに羽を十分に伸ばしていた。伸びたけれど、くっついたままの前翅、後翅、四枚の羽をたっぷり時間をかけて離れさせなければならない。

 そして5時間。あまりに長すぎるとおもわれるが、よる8時少し前になってようやくサナギにとりすがったまま羽をひらいた。羽をひらくとたちまち飛び立った。
 部屋の中だ。天井の蛍光灯では飛んでいくべき方向が定まらない。
 サッシをあけて夜の屋外へ追い出すべきか。
 
 羽化したてのアオスジアゲハは、とくにあすに希望があるわけでもない男と同宿することになった。男には見えないものかげで。


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 玄関さきに一匹、部屋のなかにもう一匹。
 ルリタテハの家で、男は毛布にくるまって…べつに泣く理由もなく、泣きはしなかった。
 あすはさしあたって、蝶が飛び去るのをむなしく見送るだけだ。


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コメント

●mokoさん

 ルリタテハは、羽のようすから想像できるかもしれませんが、花ではなく樹木で吸蜜します。そのあたりのことを記事にしたいと考えています。
 ルリタテハについて興味深い話をていねいに書き込んだブログがありました!

( ^-^)ノ(* ^-^)ノこんばんわぁ♪

ルリタテハ羽化したのですね~
♪⌒ヽ(*゜O゜)ノ スゴイッ!!! 蝶の羽化ってまだ見たことありません

アッ!ルリタテハもまだ見たことなかった(^^ゞ
枯葉のような蝶々さん、見つけること出きるだろうか・・・
何時の日か出会えたら好いなぁ~と思っています

アオスジさんも羽化ですか?
誕生したらサヨナラなんですね~

ポチ!ポチ! 今度は大丈夫かな?

●レインボー・オブ・ドリームさん

誤解を招くといけませんので記事に<注>を添えておきました。ルリタテハの羽の裏は4枚目の写真のとおり、枯葉や樹皮に擬したもののように見えます。羽のおもてがわは、蝶のうちでは地味なものの、るり色が見られます。特徴的なのはまっしぐらという言いかたがふさわしいような飛び方、そしてそのスピード…私の印象です。

こんばんは

コメントありがとうございました。

ルリタテハ、キレイな柄の蝶ですね。
蝶の羽化ですか。見てみたいですね。
昨年初めてセミの羽化を写真に撮り感激しました。

文章もおもしろく読ませてもらいました。
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